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エレベーターを降りると、ドアが4つ並んでいる。
ファミリー向けの階と違って、一部屋の広さはそれほどではない。
ドアに手をかけると、指紋が認証されてロックが解除された。
「お前の部屋、防犯大丈夫かよ」
「別に、俺と香月の指紋しか登録してないから大丈夫だよ」
履いてきたサンダルを脱いで部屋に上がる。
まるで生活感のない西の部屋は、分譲マンションのモデルルームのようだ。
モノクロで揃えられた家具が、できる男のような雰囲気を放っている。
「赤と白、それから日本酒…あ、スパークリングとかもあったわ。何飲む?」
「んー、ビール」
真っ黒な革のソファに腰を下ろし、おもむろにテレビをつける。
【夏と恋】の録画画面が映し出された。
地上波を見るのと迷ったが、録画の第3話まで遡り、再生ボタンを押す。
「ビールなんて置いてないですよ、お客様」
ワイングラスを2つ持った西がソファに腰を下ろす。
いつの間に準備したのか、チーズとトマトが交互に並んだサラダやソーセージの盛り合わせが乗った皿が運ばれていた。
「今日の気分は赤かな~」
西が見るからに高そうなボトルを持ち上げ、鼻歌を歌いながらグラスに注ぐ。
「香月は?」
「一番強いやつ」
「強いやつ…あ、ウイスキーとかの方がいい?」
そう言って腰を上げ、キッチンの方に戻っていく。
稼ぎも顔も、性格も良いのに未だ独身というのが信じられない。
こんなジジイの世話まで進んでやってのけるなんて、どれだけの徳を積む気なんだ。
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