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第1話 占わない男
駅前から続く商店街の片隅。
シャッターの下りた店の前に置いた、折り畳み式の小さなテーブル。
黒い布で覆い、その上に灯す怪しげなキャンドル。
粗末な椅子に静かに腰掛け、やや俯き気味に通りを見据え続ける。
夜の闇に溶け込む黒系統の服装に身を包み、ひっそりとたたずむ。
(さて、この街最初の客はどんな奴かな……)
目の前には仕掛けた罠のような、客用の椅子。
そこへフラフラと引き寄せられるように、五十代ぐらいの男が、酒臭い息を吐きながら腰を下ろした。
「わしの会社の海外進出が成功するか、占ってくれんかね」
身に着けている物がことごとく、高価な物だとはっきりわかる。しかも、それを見せつけるように。おしゃれとは真逆の、俗に言う成金趣味。
景気のいい言葉に羽振りの良さそうな振る舞い。
この街に来て最初の客は、上客の予感だ。
「私は占いませんよ」
「おいおい、占い師が占わないってどういう了見だ。わしをバカにしているのか?」
仕事帰りの会社員たちが帰宅を急ぐ商店街に、男の荒げた声が響き渡った。
その声に人々は注目するが、大したことじゃないとわかると、みんな俯いて再び帰途に着く。
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