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占いにしか見えないこんな露天で、『占わない』と言われれば、男が憤るのも無理はないだろう。
「私が行うのは占いじゃありません。私に未来を見通す力なんてありませんからね。その代わり、あなたの過去を見つめ、進むべき道をご案内致します」
「御託はいい。それで、上手くいくのかね? いかんのかね?」
「ではまず、あなたの過去を見ますので、私の目を見つめてください」
自分の持つ特殊な力を発揮する、絶好のタイミング。
サングラスを外し、そっとテーブルへ置く。
通りの賑わいとは裏腹に、この場だけが沈黙。
さらに沈黙……。
まだ沈黙……。
ジッと目を合わせると脳裏に映し出される、この男の記憶の数々。
大きな建物内にずらりと並ぶ工作機械。そして、それを動かす従業員たち。どうやら、なかなか大規模の工場を経営しているらしい。
海外進出なんていう野望が生まれるのも当然か。だが、こんな表面的な部分を見ても面白味がない。
男の考えていることを切り替えさせるために、言葉をかけて誘導する。
「かなり大きな会社の経営者の方とお見受けします。ここまでにするには、ご苦労もあったことでしょうね」
「苦労か……。まあ、わし一代でここまで会社を大きく育てたからな。当然苦労もあったさ、例えば――」
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