12人が本棚に入れています
本棚に追加
語り始めた武勇伝とは裏腹に見えてきた、この男の言う苦労。
差し押さえられていく工場の機械を前に、必死に懇願してくる人たち。その目には絶望と哀しみが浮かぶ。しかし、すがるその手を容赦なく振り払う。
中には追い詰められた者もいたらしく、参列したお通夜では怒りと憎しみの目が向けられる。掴みかかる遺族。割って入る付き人。懐から取り出した香典を、恵んでやるかのように放り投げる。
なんだ、相当なあくどさじゃないか。
さらに深く探りを入れるために、再び言葉を掛ける。
「なるほど、結構な財産を築き上げたようですね」
「いやいや、それほどでもない。会社第一だからな、私財なんて――」
さらに見えてくる、言葉とは大違いの現実の記憶。
風変わりな方法で開けられた隠し金庫の中には金、金、金。
社長室には美術品が飾られ、食事も贅沢三昧。
夜には、女遊びも盛んな金満生活。
弱者から搾取し、私腹を肥やす典型。
なるほど、これがこの男の生き様か。見事なまでの鬼畜ぶりだ。
さて、アドバイスに充分な記憶は覗き見た。端的に回答を述べる。
「やめられた方が良いでしょう」
「そうか。まあ、海外進出はリスクが高すぎるかもしれんな……」
「いえ、そういう意味ではありませんよ」
最初のコメントを投稿しよう!