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差し出した偽物の名刺を受け取った社長は、ざっと社内を案内すると、応接室へと招き入れた。
「どんな取材なんですかね?」
「町工場の現状のレポート記事です」
「なるほど……」
さっきは、ストレートに質問をぶつけすぎて失敗した。
今回は慎重に、水野江の名前を出すのも様子をみてからにしよう。
だがサングラスは外し、いつでも目を合わせられる準備は怠らない。
「まずは、会社設立の辺りからお話を――」
雑誌の取材がどんな手順で行われるかなど、わかりはしない。
それっぽく見せるために、普段から持ち歩いているボイスレコーダーをテーブルに置く。録音しているように見せるが、スイッチは入れていない。電池がもったいない。
そして、メモを取ってみせながら、適当な質問を並べたてる。
水野江の話に誘導できそうな回答待ちだ。
機をうかがう。
「――次に、町工場ならではのご苦労などお聞かせ願いますか?」
「そうですねえ……。やはり、景気の煽りをもろに食らうところでしょうね。私どものような下請けは、元請けがよろめいただけで簡単に転びますからね」
この回答なら『水野江工業』の言葉を出しても不自然ではないだろう。
さっそく社長の目を見て、質問を切り出す。
「この辺りで元請けって言いますと、水野江工業さんあたりですかね?」
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