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第8話 ギャンブル好きな男
直接訪ねても、話すら聞かせてもらえない。
となれば、自分の得意分野で勝負。エセ占い師の出番。
露店を出すが、ここはいつもの駅から続く商店街ではない。町工場近くの、さびれた飲み屋街だ。
非効率に見えるやり方だが、占い師を装うメリットは大きい。
能力を発揮しようにも、長時間目を合わせ続けるというのは日常生活では難しい。
その上で狙った記憶を引き出すように話し掛けるとなると、よほど条件の揃ったシチュエーションでもなければ不可能だ。
だが、占いという名目なら、相手に指示を出すことも、目を見続けることも思いのまま。欠点は受動的なところ。
だがこの場所なら、客として座るのは高確率で町工場絡みの人物。待ち受けるには打って付けだ。
「あの…………」
だが連日店を出しても、なかなか客はつかない。
当然だろう。人通りの多い駅の商店街でさえ、日に二人か三人。それがこの人影まばらな薄暗い路地だ。覚悟はしていたが、心が折れそうになる。
「あの、すみません…………」
呼びかける声にハッとすると、いつの間にか目の前には中年の男。
弱気に考え事をしていたせいで、気が付かなかった。
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