第8話 ギャンブル好きな男

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「すみません。考え事をしていたものですから……」 「実はここのところ景気が悪くて、経営している工場が芳しくないんです」  ジーパンに半袖のダンガリーシャツ。しかも『経営している工場』と言った。  待ちに待った狙い通りの人物登場に、期待が高まる。 「なるほど、わかりました。ではまず、あなたの過去から探ってみるとしましょう。さあ、私の目を見つめてください」  過去を探ると明かしているのに、素直に応じて目を合わせる人々。  おかしくて、笑いがこみ上げそうになる。  まあ普通に考えて、目を合わせたら本当に過去を暴かれるとは誰も思わないか。  サングラスを外して、男と目を合わせる。  じっと男の目を見つめながら、研ぎ澄ます神経。  得られる情報は、映し出される記憶ばかりではない。  例えばタバコの匂い。この男は吸わないようだが、嫌というほどその匂いが漂ってくる。  ギャンブル好きは記憶から明らか。そして、この時間。しかも、酒の匂いがしないとなれば想像もつく。  今回は、この辺りから切り込んでみるか。 「さて、経営が芳しくないとのことですが、とりあえずギャンブルはやめておいた方がいいでしょう。さっきまでやっていた、パチンコとかね」     
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