12人が本棚に入れています
本棚に追加
「すみません。考え事をしていたものですから……」
「実はここのところ景気が悪くて、経営している工場が芳しくないんです」
ジーパンに半袖のダンガリーシャツ。しかも『経営している工場』と言った。
待ちに待った狙い通りの人物登場に、期待が高まる。
「なるほど、わかりました。ではまず、あなたの過去から探ってみるとしましょう。さあ、私の目を見つめてください」
過去を探ると明かしているのに、素直に応じて目を合わせる人々。
おかしくて、笑いがこみ上げそうになる。
まあ普通に考えて、目を合わせたら本当に過去を暴かれるとは誰も思わないか。
サングラスを外して、男と目を合わせる。
じっと男の目を見つめながら、研ぎ澄ます神経。
得られる情報は、映し出される記憶ばかりではない。
例えばタバコの匂い。この男は吸わないようだが、嫌というほどその匂いが漂ってくる。
ギャンブル好きは記憶から明らか。そして、この時間。しかも、酒の匂いがしないとなれば想像もつく。
今回は、この辺りから切り込んでみるか。
「さて、経営が芳しくないとのことですが、とりあえずギャンブルはやめておいた方がいいでしょう。さっきまでやっていた、パチンコとかね」
最初のコメントを投稿しよう!