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「え? あ、ああ……。むしゃくしゃしてしまうと、つい……」
まずは軽く言い当てて、信用を積み上げていく。
「時々は勝っているようですが、トータルしたら大きく負けています。ストレス発散も大事かもしれませんが、他の趣味に回した方が良さそうですね」
「確かに……、その通りですね」
同意はしたが、この男がギャンブルを止めるわけがない。
だが、そんなことはどうでも良い。これも、信用を高めるための種まきだ。
そして、そろそろこちらの思惑に誘導を始める。
まずは普通の話術で揺さぶり。工場の経営者ともなれば、恨みを買いそうな出来事の一つや二つ、遭遇しない方がおかしいので、その辺りから……。
「工場の経営不振に関してなんですが……。あなたは誰かに、恨みを買うようなことをしましたね?」
「…………」
――えっ?
思わず疑う、男の記憶。
ただの揺さぶりの言葉に、予定外の大物が釣れた。
男の記憶の中にいる、見覚えのある人物。唯子の父親に間違いない。
降って湧いたチャンスの到来。水野江にもつながる可能性は大だ。
一つ大きく息を吐き、気持ちを切り替える。
「ど、どうも、その恨みが影響しているようです」
こっちが慌ててどうする。
いつも通り、冷静に、慎重に……そして大胆に。
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