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「こ、今度は脅迫か。何が今日来たばかりだ、適当なことを言いおって」
「長らく法の目をかいくぐって、充分すぎる貯えもできたでしょう。ですからこれ以上欲張らずに、後は大人しく隠居生活でもした方が身のためってことですよ」
「不愉快だ。訴えてやる」
男は捨て台詞を吐き、背を向ける。
もはや負け犬の遠吠え。
だが、黙って立ち去らせはしない。
「ちょっと、お代がまだですよ」
「ふざけるな! 言い掛かりをつけられて迷惑してるっていうのに、金など払えるか」
「へえ、もっと色々と話しちゃってもいいんですかね。社長室には、やばい物が隠されているみたいじゃないですか。マスコミが……、いや国税庁あたりが食いついてきそうだなあ」
男は去りかけた足を止め、キッと振り返る。
握り締めた拳は怒りに打ち震え、今にも殴りかかりそうなほど。怒髪天を衝くというやつか。
だが、殴り掛かかってはこない。大会社の社長ともあろう者が、こんな人目に付く場所で暴力を振るえば、それだけでせっかくの地位を汚しかねないだろう。
「くそっ、調子に乗るなよ!」
男はさらに負け惜しみ。
負け犬がさらに吠える。
そして懐から、一見してわかるブランド物の分厚い札入れを取り出し、中から札を一枚抜き取ると、わざと丸めて投げつける。
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