第1話 占わない男

6/6
前へ
/80ページ
次へ
「これは代金だからな。誤解するんじゃないぞ!」  ひと際大きな声で言い訳を吠えると、男は足早にこの場を立ち去る。  やれやれと苦笑いしながら拾い上げる、紙くずのように丸められた札。  額にぶつけられたのはちょっと癇に障ったが、顔をしわくちゃにした福沢諭吉とのご対面に、思わず口笛。  この街との相性は文句なし。  なにしろ、初っ端から上質な獲物とのご対面だ。思わず胸が躍る。  この場でけりをつけるのはもったいない。周到に調査して、確実な弱みを掴めば、まとまった金ともご対面できるに違いない。  もう声も届かないほどに遠ざかった男の背中に、感謝の言葉を投げる。 「――まいどあり。次回お会いする時をお楽しみに……」
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加