親と子

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小さい頃から夢だった区役所の公務員につくことができ、昨日と同じ時間に仕事を終えて最寄駅から降りた。 起きた後も昨日の彼女が頭を離れず、気がつくと僕は自宅ではなく昨日彼女と歩いた道を進んでいた。 確かこの道を通ったよな、と思い出しながら橋の所まで来た時に誰かに見られているような気配を感じて振り返った。 誰もいなかったが、直感でこの橋を渡ってはいけないような気がした。 来た道を戻ろうとすると、なぜか全く思い出せなくなくなった。 今来た道が思い出せないという経験は大人になってからは無かったので、かなり焦った。 最寄駅まで戻ろうと、携帯を使おうとしても電波は無い。 街の人も一人も見当たらないのだ。 なのに僕は何故か昨日来た道だけを覚えていた。 夜も老けて来てしまったので嫌な雰囲気を感じながらも、橋を渡り彼女と別れた所まで足を進めていた。 昨日別れた十字路についた時に何故か右に彼女の家を感じた。 きっとこっちだ。 僕は何かに取り憑かれたように走り出していた。 しばらく走り出した時に大きなガラスの割れる音がして立ち止まった。 家のガラスが割れたようだが、植えられている木々に阻まれて家が見えなかった。 僕は足を止めてそちらに向かおうとすると、よろよろと昨日の彼女が家から出て来てこちらに向かってきた。 「何かあったんですか?!」 そう駆け寄ると彼女は僕に言った。 「来て欲しい場所があるんです。」 僕は強く頷き彼女の手を握り、彼女の言う来て欲しい場所に案内してくれた。 橋を戻り駅を通り過ぎて僕の家の方に進んだ。 彼女と触れていると不思議と暖かい気持ちになる。 僕も彼女も一言も発する事なく、歩き続けた。 「ここです。」 そう言って彼女が足を止めたのはお寺の前にある墓地だった。 ここで血の気が引いた。 まさか、この人は幽霊なのでは無いか。自分をこっちの世界に引きずりこもとしたのでは無いか。 今日だって彼女を見つけるまで誰一人合っていないし携帯の調子も悪かったので不思議と合点がいった。
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