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1.今でも忘れられない
高校二年生の時、告白された。
「ずっと見てて、好きになってしまいました。私と付き合ってください!」
頬を染めて叫ぶように言った彼女はクラスでも人気の女子で。対する僕は人の目を見るのが苦手だから前髪を長めに伸ばしている陰気な男子。寝癖もそのままのことが多いし、髪も染めていない。背もサバ読んで170cmと言えるかどうか。太ってはいないが鍛えているわけでもないもやし。
こんな僕を彼女が好きだなんて嘘だと思った。
(もしかして罰ゲームとか?)
告って、こちらがOK出したらこっそり覗いてた連中が出てきてバカにするパターンじゃないかと考えた。
(……悪趣味だな。僕も、彼女のこと好きだったのにな)
いつも明るくてムードメーカー。肩口で切られた髪はさらさらのストレート。いろんなことに気がついて、手助けしてもらったこともあった。
「僕も、君が好きだよ」
自然と言葉が出た。彼女は首まで真っ赤にして、僕の返事に目を見開いた。
「ほ、ほんとに?」
「好きだから! 付き合えません。罰ゲームかなんか知らないけど、からかうのは僕だけにしてくれよ!」
そうまくし立てるように言って、僕は校舎裏から逃げ出した。周りを見る余裕はなかったからわからなかったが、きっと僕が逃げた方向とは別の場所に何人か隠れていたんじゃないかと思う。
次の日、彼女は学校を休んだ。
僕は努めて気にしないようにし、それから言葉を交わすことはなかった。
あれは本当に罰ゲームだったのか。
彼女は本気で僕に告白してくれたのではないか。
いや、僕みたいな男が彼女に好かれる要素なんてこれっぽっちもなかっただろう。
あれから何度も自問自答をくり返した。
告白されたのは夏になる前のことだった。
大学三年生になった、今でも忘れられない。
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