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 自宅アパートの前の蛍光灯は、いつも寿命が切れかかっている。不規則なリズムで気紛れに灯るもんだから、穴がいまいち見えにくくて鍵が挿さりにくい。  それは今日も同じことで、タロウは舌打ちをした。  ようやく鍵が穴に収まって、息をついたところで、隣家の中から騒がしく駆けてくる足音が聞こえてきた。  漫画とかで描かれる“どたばた”って、きっとこういうことをいうんだろうな。タロウは思わず笑ってしまった。  隣家のドアノブが慌ただしく震えたかと思うと、ドアの隙間からは予想通りの顔が出てきた。 「あっ、おかえりなさい。タロウくん」  制服にエプロン。右手にはおたまを持ったまま、ハナは言った。  タロウは、ただいま、と応えた。 「遅かったね。アルバイト?」 「うん。ハナちゃんは? まだ一人?」 「うん。お母さん、今日遅番なんだ」 「そっか」  シングルマザーで子供を育てていくということは、どうやら楽なことではないらしい。ハナたちに出会って、タロウは初めてそんなことを知った。  まあもっとも、自分も似たような境遇だ。養ってくれる親がいてくれるだけ、ハナは恵まれている方かもしれない。
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