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「ディズニーランド、好き?」
「ディズニーランド?」
そう問われてタロウは、いつだったか目にしたCMを思い出していた。行ったことがないから、記憶の中にあるディズニーランドは、あのCMだけだった。
あんまり好きじゃないかな、と答えた。CMを観た時の、率直な感想だった。作り物の幻想に人々が群がる光景を、滑稽に感じたのを憶えている。
ハナは、少しがっかりしたような顔をした。
「そっか。男の子はああいうところ、あんまり行かないもんね」
「まあ、そうかな。どうして?」
「どうしてって?」
「どうしてそんなこと訊くの?」
するとハナは、ああ、と言って、紙を二枚、エプロンのポケットから取り出した。
「これ。チケット。知り合いの人にもらったの」
「チケット?」
初めて見るそれを、タロウはまじまじと見つめた。
「うん。ペアチケットだったから、友だちと一緒にって」
「お母さんは行けないの?」
「ううん。でも、お休みの日はゆっくりしてほしいから」
「じゃあ、他の友だちは? 女の子の方が、こういうの好きじゃない?」
ハナの手からチケットを取り上げて、蛍光灯の光にかざした。
不自然に大きなネズミのぬいぐるみの目が、さっき殺した男の瞳孔の開きに似ているなと、タロウは頭の片隅で思った。
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