7/17
前へ
/71ページ
次へ
「ディズニーランド、好き?」 「ディズニーランド?」  そう問われてタロウは、いつだったか目にしたCMを思い出していた。行ったことがないから、記憶の中にあるディズニーランドは、あのCMだけだった。  あんまり好きじゃないかな、と答えた。CMを観た時の、率直な感想だった。作り物の幻想に人々が群がる光景を、滑稽に感じたのを憶えている。  ハナは、少しがっかりしたような顔をした。 「そっか。男の子はああいうところ、あんまり行かないもんね」 「まあ、そうかな。どうして?」 「どうしてって?」 「どうしてそんなこと訊くの?」  するとハナは、ああ、と言って、紙を二枚、エプロンのポケットから取り出した。 「これ。チケット。知り合いの人にもらったの」 「チケット?」  初めて見るそれを、タロウはまじまじと見つめた。 「うん。ペアチケットだったから、友だちと一緒にって」 「お母さんは行けないの?」 「ううん。でも、お休みの日はゆっくりしてほしいから」 「じゃあ、他の友だちは? 女の子の方が、こういうの好きじゃない?」  ハナの手からチケットを取り上げて、蛍光灯の光にかざした。  不自然に大きなネズミのぬいぐるみの目が、さっき殺した男の瞳孔の開きに似ているなと、タロウは頭の片隅で思った。
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

102人が本棚に入れています
本棚に追加