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第1章 2010年5月1日
ここはどこだろう。車の中?目の前にはすっかり年をとった私の自慢の子どもたちの姿がある。長女、次女が何かを話している。何を話しているかはさっぱり分からない。
やがて外の景色が止まった。
「お母さん、今日からお母さんはここで過ごすんだよ。」
「ここはどこなの。」
「ここはね、お母さんの身の回りのお世話をしてくれる所なの。他にもお母さんと年が近い人達がいっぱいいるんだって。」
こんな所初めて来た。私は帰ってお父さんの夕飯の支度をしなきゃいけないのに。
長女が見知らぬ女性と話している。
「すいません、お母さんをよろしくお願いします。時々顔を見に来ますので。」
「はい、では荷物預からせてもらいますね。」
長女は女性に大きなカバンを渡している。あの中には何が入っているんだろう。
そして、女性が私に近づいてくる。
「初めまして。私は佐伯美香といいます。宜しくお願いします。」
笑顔で話しかけてきた。人当たりの良さそうな20代前半くらいの女性だ。
「森本ヨキミさんですね。お待ちしてました。まず一緒にお部屋の方に行きましょうか。」
そう言うと女性は建物の中から車輪のついた不思議な椅子を持って私の元に戻ってきた。
「森本さん、まずこの車椅子に座りましょう。」
女性は私の事を軽々と抱え、私はその椅子に座らせられた。なんだかあまり座り心地が良くない椅子だ。
「じゃあ、宜しくお願いします。」
長女と次女は私に手を振っている。なんだかよく分からないが、私も2人に手を振り返した。
2人は車に乗り込み、颯爽といなくなった。
「では私たちも行きましょうか。」
私はこれからどこへ連れて行かれるんだろう。この人は誰だろう。ここはどこだろう。何もかも分からない。急に何とも言えない気持ちになった。
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