1/5
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

 

「ただいま」 そう呟いて、 真っ暗な玄関をくぐる。 目の前の扉を開けると、 そこは薄暗いリビングダイニング。 ダイニングテーブルに伏したまま眠る彼女が目に入り、 苦笑いする。 毎晩毎晩、 待ちくたびれて眠ってしまうのだ。 起きて待っている必要はない、 と何度言っても。 こうなったら自分が早く帰ってくるしかない。 そう思ってもそれも難しい。 彼女の手には読みかけの本があり、 テーブルには冷めた夕食がある。 もうこの時間なら、 夕食と言うより朝食かもしれない。 そっと彼女の顔にかかった髪に触れる。 髪をよけると、 彼女の顔が露になった。 その無防備な寝顔に、 また苦笑がこぼれる。 規則正しく繰り返される呼吸。 わずかに開いた赤い唇。 幸せそうな寝顔。 そっと彼女を抱きかかえる。 彼女の部屋ではなく、 直ぐそこにあるソファーまで彼女を運ぶ。 横たえて、 ソファーに置いてあるブランケットを彼女にかけた。 多分、 今日はもう朝まで起きないだろう。 眠りが浅いときは、 俺が扉を開けたとき目を覚ます。 それが、 日に日に起きなくなって、 最終的にはちょっとやそっとのことでは起きなくなる。 俺に付き合って不規則な生活をしているから、 疲れてしまうのだろう。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!