第一話 異世界《ミッドガルニア》は突然に 04

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 荒々しく跳ねている髪が、まるで獅子の威圧さと猛々しさを感じさせる。  だが、落ち着いて青年を伺う余裕は、ヒヨリには無かった。 「……女、だと?」  一方青年は海に漂う女性(ヒヨリ)の姿を凝視するも、ヒヨリの背後の海面から不自然に沸き立つ泡に気付いた。  その直後、海面が盛り上がり、人の姿だが身体全体は鱗に覆われ、魚とワニを合わせたような顔は恐ろしさを型どった醜悪さを醸しだした異形な生物……怪物が姿を現したのだ。  ヒヨリは背後振り返り、その怪物の姿を見た途端、悲鳴もあげられないほどに、なおさら身体が硬直した。  怪物は鋭い牙を見せつけるように大きな口を開き、ヒヨリを捕えようと両腕を掲げた瞬間――  ズバッン!  怪物の頭部が切断された。  主因は、青年が放り投げた手斧によるものだった。  手斧の持ち手の後部に鎖が付けられており、それを引き戻すと、手斧は青年の手へと戻っていく。  怪物の首から噴き出した緑色の血飛沫がヒヨリの頬にかかり、氷を直に触れたような冷たさが伝わる。  頭部を失くした怪物は力無く倒れて、そのまま沈んでいくと、緑色の血が海面に広がったのだった。  凄惨で異常な光景だ。正常にいられるはずがない。     
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