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なので逃してしまったら、次の便まで長時間待たなければいけなくなる。時間が長く感じる学生にとって重要な問題なのだ。
時折強い風が吹き抜けていくが、ヒヨリの駆け足は緩むことなく連絡船乗り場へ向かった。その結果、ずぶ濡れにはならず出航時間に余裕を持って到着した。
のだけど――
「え……。出航は、一時見合わせですか?」
「そうなんだよ、海が時化っているみたいでね。それで念の為に一時見合わせ中なんだよ」
乗船券売り場の職員が窓側に顔を向けると、ヒヨリも誘導される。
窓の外は雨は先ほどよりも強く降りだしており、広がる海は波飛沫が絶え間なく弾けている。その先にはヒヨリが暮らす飛芽島が霞んで見える。
しかし、沖合の方はそれほど荒れているように見えなかった。
「大丈夫なんじゃないですか?」
「今はそんな風に見えるかも知れないけど、時折強い風が吹いてきているからね。念の為だよ」
「そんな……。せっかく走ってきたのに……」
ヒヨリは乗船券売り場の窓口前で、へろへろと力無くその場に膝をついてしまった。
「待ち合い場のベンチにでも座って、ゆっくり待っていてください。出航できるようになりましたらアナウンスしますので」
職員は愛想よく笑い、慣れた素振りでベンチがある場所を指し示す。
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