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そこには自分と同じ島出身者……見慣れた島民が数人いた。大半はベンチに座っては備え付けのテレビを見たり、部屋の隅にある古いゲーム機で遊んでいる大人と、それを観る子供が暇を潰していた。
ヒヨリはしょうがないと携帯電話(スマートフォン)を取り出し、帰宅時間が遅くなると母親にメールを送ろうとすると――
「おや、ヒヨリちゃんじゃないか。どうしたの、こんな所で?」
「あ、茂さん!」
声をかけてきたのは、漁業用ウェア――プロ仕様の雨合羽を着用している若い男性。近所に住む気の良いお兄さん―立花茂(二十九歳)―だった。といっても実の兄ではない。
茂は関東出身者で、三年前に定住支援制度でヒヨリの島に移住してきた他所の人だ。
「買い物で来ていたんですけど、時化で足止めされて……」
「ああ。それで、その大量の荷物な訳か」
ヒヨリの足元に置かれている二つのビニール袋に目がいく。
「そういう茂さんは?」
「ふふ、よくぞ訊いてくれました。ものはついでだ。凄く良いモノを見せてあげるから、ついてきなよ!」
茂は満面の笑みを浮かべては、わざわざ雨が降りしきる外へと出ていったのである。ヒヨリは首かしげつつも後を追いかけていく。もちろん荷物を忘れずに。
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