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「はは。あれもあれで味わいがあるじゃん。いつか俺の船も、あんな風に渋みを出したいよ」
「もう漁に出るんですか?」
「ああ。来週にトヨさんと一緒に沖合に行く予定だし、準備は万端だよ。という訳で、ヒヨリちゃん。これに乗ってみないかい?」
「え? 良いんですか?」
「ああ。連絡船もいつ出るか分からないだろう。ものはついでだから、これで送ってあげるよ」
ヒヨリは沖の方を見る。海が荒れているとはいえ、それほどの高波では無い。揺れは激しいかも知れないが、昨今の船ならば、そう簡単には転覆はしないだろう。
経験が浅い茂の操舵技術に少し不安はあったが、三年間研修をして文字通り荒波に飲まれたのだ。多少なりの信頼はある。それに出航されるまで待つのは退屈だし、早く帰れる。良い点が上まった。
「それじゃ、お言葉に甘えて、乗せてください」
「あいよ。遠慮無く乗ってくれ!」
二人は真新しい船に乗り込み、出航の準備を始める。
茂は慣れない手つきで縄を巻き取りつつ、船尾を見ては障害物が無いか安全確認をしていく。
「ヒヨリちゃん、ほら」
と言って、茂はオレンジ色を基調した救命胴衣を手渡してきた。ヒヨリはすぐに身に付ける。救命も新品だからなのか、鼻につく科学的な匂いがした。
「茂さん、私も手伝いましょうか?」
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