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ミツ兄は目に見える溜息をつき、玄関口に置いてあった自分のカバンを取り上げた。そして、冷ややかに俺を見つめた。
「霊視も遺伝だ。あきらめろ」
「ううう~~~………」
肩を落とすしかない問答無用の言葉。
俺たち兄弟の能力は、父さんの超能力と母さんの霊視能力が組み合わさってできているらしい。
自慢じゃないが、俺は幽霊が嫌いだ。夏によくあるテレビでの怪奇特集や、花火大会の帰りのついでにやるような肝試しなんて、とんでもない。
せめてもの救いは、自分に霊感がないこと、だったのにっっ。
母さんに霊感があると知り、また、父さんのやっている会社がただの調査会社じゃないと知り、思い出したことがある。
山奥の朽ちた家から飛び出してきた、獣じみた男の霊。俺が幽霊をダメになったきっかけだ。己の精神衛生を保つために、俺の頭はアレを無かったものとして処理し、ついでに自分に霊感があることを抹消したんだ。
ものすごく怖かったのに、あんなのただのキ●ガイなだけでぜんぜん怖くない、なんて母さんが言うから、トラウマになったんだよな……。あれが怖くないなら、怖い霊ってどんな化け物なんだよ………。
「何を騒いでいるの?」
落ち込んでいると、母さんが玄関へ出てきた。ミツ兄が口を開く。
「向かいの九里田さんち、お婆さんが亡くなったみたいだ。五樹が幽霊を視たんだって」
「まあ………」
続くミツ兄の言葉は、母さんから俺へと切り替わる。
「そんなに落ち込むなよ。そのうち慣れてきて、幽霊なんか気にならなくなるよ」
「ううう~~~………」
「大丈夫よ」
下向きの俺の前に、母さんの笑顔が現れた。ポンポンと腕を叩かれる。
「大丈夫。幽霊って言っても、全部が全部、怖いものじゃないんだから。九里田さんのお婆ちゃんを視ても、怖くなかったでしょ?」
「怖いんじゃなくて、嫌いなんだって」
言えば、バシッと頭を叩かれた。
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