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「痛っ☆」
「仕方がないと思って我慢しろ」
頭を擦りながら顔を上げれば、俺に背中を見せるミツ兄。
「我慢ったって、どうすればいいんだよっ」
玄関のドアを開けながら、ミツ兄は振り返った。
「幽霊を視ても、無視をするんだ」
その言葉を理解する前に、バタンとドアは閉められた。
「できる訳ないだろおっっ」
閉まったドアに、持っていたリュックを叩きつける。その勢いを借り、後ろに立つ母さんに向き直る。
「無視なんて、できる訳がないっっ」
「結界のある我が家にずっと籠るっていう手もあるけど……」
母さんのアイデアに、俺は首を縦に振った。
「そうしようそうしようっ。夏休みはもうすぐだし、このまま家に……」
「でも、ダメっっ」
靴を脱いで廊下へ足を踏み出そうとした俺の前、母さんは立ちはだかった。
「三流も四朗も、我慢してきたのっ。それに、我慢することを覚えないと、良い大人になれないんだから」
「良い大人ってなんだよっ。そんな未来より、現実が大事だってばっ。幽霊を視るなんて、耐えられないっっ」
母さんを押しやるが、逆に押し返される。
「耐えられなくても、頑張るのっ」
「で~き~な~い~っっ」
「できなくても、するっっ」
「できないったら、できないっっ」
しばらく押し返しが続いたが、
「ちょっとおっ。誰か来てっっ。五樹が行きたくないって、ダダをこねるのっっ」
そんな母さんのヘルプコールで現れたカズ兄とフゥ兄に、結局、俺はつまみ出されてしまった。
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