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「どうした?」
急に横を向いて凍りついてしまった俺に、立原は聞いてきた。けれど、それに答える心の余裕はなかった。
何だよ………あれ………。
目にした五十嵐先生は、どろどろとした黒い空気を発散していた。その黒い空気があまりにも気持ち悪く、俺は思わず後退ってしまった。
―憎い……憎い……憎い………
―悔しい……悔しい……悔しい……
―許さない……許さない……許さない……
―殺してやる……殺してやる……殺してやる……
黒い空気……? ……違う。あれは、いろんな人の醜い感情だ。
「おはよう」
笑顔の挨拶の背後、黒い空気が動きを見せた。
丸く集ったかと思うと、人の顔に変化する。
への字に曲げられた口、吊り上った目、歪んだ眉………。
それは、怒りの形相だった。
―あの男さえ、いなければ………
「うっっ」
こめかみに激痛が走った。あの顔の声なのか、怒りが言葉となって伝わってきた。
―なぜ……こんな目にあうのだ……。あの男さえ、いなければ………
―なぜ……この土地を奪われなければならない………。あの男が憎い………
「和泉?」
立原に身体を支えられた。薄目を開け、親友の心配顔を見たけれど、不安を消す言葉が出てこなかった。
「やっぱ、調子悪いんじゃねえか」
違うっっ。
言われた言葉に、顔をしかめて首を振る。
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