動き出した闇

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「知ってる? 西野(さいの)公園と東海川(あずみがわ)商店街でも、動物の首なし死体が見つかったんだって」 「やだあ、気持ちわる~い」 「あの(やしろ)の前に転がってただけでも怖いのに~」  英語研究室に屯していた英語クラブの女生徒たちが、帰り間際まで噂話をしている。聞こえた会話に、生徒たちが洗ってきたマグカップを片付けていた私は振り返った。 「え?」  疑問符を発した私に、彼女たちは顔を向ける。 「先生の来る前なんですけど、うちの学校に猫の死体が置かれる事件があったんですよ」 「で、その死体のあった場所が、学校の敷地内にある社の前だったの」 「社………」  ふと呟いて、立ち昇っていた瘴気に目を見開いた時のことが蘇る。  ………何者かが封印を…………。 「先生は知らない? うちの学校、校舎の裏に小さなお社があるんだよ」 「いろいろ言い伝えがあるんだよね?」 「うん。鬼の首塚だとか、ここは昔、処刑場だったから、とか」  学校の怪談話にありがちな噂。思わず苦笑する。 「違うわよ」 「え?」 「ここのお社には、祟り神が封じられているの。あの社の前で呪いをかければ、呪われた相手は必ず死んでしまうそうよ」  私の話に、英語クラブの三人は顔を見合わせた。 「聞いたことある?」 「ううん」 「ねえ、先生。それ、どこで聞いたんですか?」  思い出す。社に近づいた幼い自分を引き止めた、父親の手。 ―ここにはね、怖い怖~い神様が入っているんだ。だから、ここに近づいちゃいけないよ  この学校の生徒、いや、この町に昔から住む住民でさえ、この話は知らないだろう。それは、我が家にだけ伝わるものなのだから。
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