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―どうして怖い神様なんか祀っているの?
―ここの神様は、生命と引き換えにして、憎い相手を殺してくれる神様なんだ。でも、それはとても哀しいことだから、そんなことが起きてはならないために、私たちが存在するんだ。涼子の住むこの家は、あの社の門番を代々してきたんだよ
思い出す。物心ついてから訊ねた自分の言葉。そして、教えてくれた父親の悲しそうな表情。
打ち消すように、私は口を開いた。
「私ね、この町の出身なの。この学校が建つ前、ここには大きなお屋敷があったのよ。久しぶりにこの町に帰ってきて、そのお屋敷がなくなっていたのには驚いたわ………」
目の前にあったのは、鋼鉄の門扉で遮られた白い外壁の硬質な建物。
大人になったなら、もう一度あの建物に出会えるだろう。
積み上げてきた想いの塊がガラガラと砕け、その頂点にいた私は瓦礫に飲まれる。
………もう生家に戻れないことはわかっていた。けれど、二度とあの建物を見ることができないとは考えてもいなかった。
「………そのお屋敷に住む人間が、神官となってお社を管理していたはずなんだけど」
女生徒たちは、再び顔を見合わせた。
「もしかして、その話を聞いた誰かが………」
「動物を使って、誰かに呪いをかけた……?」
「うそぉ……」
少女たちの無邪気な空想。真正面から受け止めることができず、私は視線を外した。
現実はこうだ。
屋敷の住人で話を知っていた私が、何者かが動物を媒体にしてこじ開けた空間に、門番であるはずの使命を忘れて入り込み、抜け出せなくなった。
―力を貸すぞ……? 憎い男がいるのだろう………?
腕にまとわりつく闇は冷たかった。けれど、絶望の淵に沈んでいた私にはそれが心地良く、丸めていた掌の力が抜けてしまった。
私の手から滑り落ちた念珠。糸がほどけ、珠が地面に………
私はそこで瞬きをした。
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