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* * * * *
懐かしさを求めて、校舎内を彷徨ったあの日を思い出す。
月が輝く夜空の下、立ち昇る瘴気に目を見張った。
何者かが封印を………。
そしてそれと同時に、やはりここは自分の家だったのだ、という想いが湧き上がる。
封印をしなくては………。
悲しみが膨れ上がりそうだったが、何とか堪え、自分の役目を思い出す。瘴気が舞い上がる方向に急ぎ、腕に填めていた念珠を握り締めた。
封印をしなくては………。
想いを抱えていたはずである。私の生まれたこの家は、その役目を背負っていたはずである。けれど。
―我らの………土地………返せ……返せ………
月光の中、渦巻く暗闇は繰り返していた。
ああ、あれは………。
月光が降り注ぐ、太古の丘。
見たことがないはずなのに、見覚えのある古代の景色が目の前に現れる。
これは……?
ドクン、と心臓が脈打つ。
……巫女の能力があって、ごめんなさい……
懐かしさと共に切なさがこみ上げてきそうになったが、それに囚われる前に、渦巻く暗闇は憎悪の塊に変貌した。
―許せない…許せない…許せない……
―憎い…憎い…憎い……
―悔しい…悔しい…悔しい……
我に返る。
「ふ、封印を、しないと……」
念珠を握り締めた手が震える。すると、私の心の動揺を悟ったかのように、闇の中から鬼が現れた。
―お前も……悔しいだろう……?
積年の恨みで醜く歪んだ顔が囁く。
―大切なものを……土地を……棲み処を……奪われた……。我らと同じ………
「私は………」
震える唇を噛み締め、私は闇に向かい合う。
―我らはわかるぞ………。お前の悲しみ……苦しみ……辛さ……
「違う……、違うっ。私は、貴方たちを……っ」
念珠を握った手を突き出す。鬼はそんな私に、歪んだ笑みを見せた。
―強がるのはよせ……。悔しいのだろう……? 憎いのだろう……?
「私は………」
―力を貸すぞ……? 憎い男がいるのだろう………?
腕にまとわりつく闇は冷たかった。けれど、絶望の淵に沈んでいた私にはそれが心地良く、丸めていた掌の力が抜けてしまった。
私の手から滑り落ちた念珠。糸がほどけ、珠が地面に散らばる。
眼前で渦巻いていた闇は狂喜し、風となって私を包み込んだ。
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