第1章

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いくつかチャンネルを切り替えると、自然の風景を映し出した番組と思われる映像に行き当たった。木々に囲まれた湖のそばに、こちらを見つめている一人の男性の姿。身長はゆうに180cmを超えているだろうか。長身の部類に入る。年齢は、三十~四十の間であるように見えた。ジーンズを履いており、上には白い長そでのワイシャツを着ている。よく見ると、ワイシャツの裾は所々、解れていた。  「何この番組.......気持ち悪い」 春香はすぐにチャンネルを切り替えようとした。得も言えぬ不快感を感じたからである。 恐怖心とも言えるだろうか。リモコンを握る右手が湿り気を帯びていることに気付く。  「チャンネル変えよう」 チャンネルの番号の数字ボタンを押す。しかし、映像は切り替わらない。相変わらず、湖の側に、気味の悪い男が立っている映像のままである。何度もリモコンの数字ボタンを押す。切り替わらない。次第に、焦りと嫌悪感が募ってくる。  「顔が変わってる?」 リモコンの操作を行う度に、初めは無表情であった男の顔が次第に、まるで首をゆっくりと絞めつけられていくように、苦悶の表情へと変化していく。春香がリモコンの操作をする度に、その表情はますます苦悶を浮かべてくる。観ているこちらも首を絞められているかのような錯覚に陥るほどだ。  「なんで切り替えれないの!?」 リモコンを操作することを止め、直接テレビ本体の電源ボタンを探す。赤い丸型の突出したボタンを見つけた。そのボタンを押す。画面は消えない。また男性の表情が蠢く。何度もボタンを押す。連動するかのように、男性の表情も変化する。ついには、男性の口から血が溢れ出てきた。春香の焦りは加速する。  「どうすればいいの……そうだ!」 とっさに思い付き、テレビから伸びているコンセントを一気に引き抜いた。ぶつんと音が鳴り、画面は真っ暗になる。春香の全身から冷や汗が止まらない。テレビを消すことは出来たが、不快感が収まらないのである。  ピンポーン 突然のチャイムに驚く。恐る恐るソファーから立ち上がり、玄関へと向かう。  ガチャガチャ! 鍵を外から開ける音がする。そして、  「ただいま。今日は早かったわね」 笑顔の母がドアから顔を覗かせた。春香は一気に安堵し、涙を眼に床に視線を落とす。その様子を見た母はすぐに春香に駆け付ける。 「どうしたの?何か嫌なことでもあっの?」
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