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〝きっと夢は叶うよ〟
今でも時々、あの言葉を思い出す。
提出した課題がイマイチで、教授からボロカスに言われた時。プレゼンに失敗して何度もやり直しを食らった時。
そんな時、彼の言葉を思い出すのだ。
そしてまた会いたくなる。またあの飴と鞭で、私を励ましてくれないかなと思う。
それはもう叶わないのだと諦めてはいるけれど。
「坂井ちゃん、なんか鳴ってるよ」
横にしゃがみこんでいる沙也加につつかれ、慌ててイヤフォンを外した。
床に転がしていたスマートフォンを手に取る。メールだ。このクソ忙しいのに誰だ、と思いながら、絵の具の付いていない指で画面をタップする。そしてどきりとした。
送り主の欄には、もう会うこともないと思っていた彼の名前。
『お久しぶりです! キャンパスライフはどんな感じ? 近況報告がてら、今度ご飯でもいかがですか』
気付くと、沙也加がにやにやと私の顔を見つめていた。
「あー。もしかして彼氏? 坂井ちゃんって今フリーじゃなかったっけ? いいなー」
「違う、違う。そんなんじゃなくて。……ただの予備校時代の知り合いだよ」
「うっそ。なんか乙女な顔してた」
そう言われて苦笑いを浮かべた。私はどんな表情をしていたのか。〝彼〟は全然私のタイプではないし、むしろ誰よりも嫌いだったたずなのに。
……なんて、連絡を待っていたくせにひどい言い草だ。
「違うよ。この人はただの嘘つき野郎で……ライバルっていうか、戦友っていうか。……いや。んー、なんていうのかな」
懐かしい日々を思い出す。ほんの一年程前の出来事だけれど、鮮明に思い出せるあの透き通った視線。
そう。私はあの頃、生徒だったのだ。
上には上がいるってことを教えてくれたのは彼だった。
そして、そんなことどうでもいいんだってことを教えてくれたのも、彼だった。
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