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四月になると、講評時に並ぶデッサンが五枚程増えた。
教室の端に並べられた三十二枚の絵。先生が順々に、そこに描かれた石膏像の寸評を述べていく。それを聞く生徒たちの目は真剣だ。他の人への評価も自分が描画する際の参考になるから、先生の言葉は一言一句聞き逃せない。
だけれどそれらの言葉は、私の耳に一切入ってこなかった。
私はただじっと、新しく参加した五枚の絵を眺めていた。
見るからに未経験者が描いたと分かるデッサン。全くパースが取れていない、見ているこちらが不安になるような絵。
端的に言えば、どれも下手くそだった。だから順位も低くて、その五枚は全部〝右〟の方に並べられている。
私の敵じゃない。
そんなことは分かっている。だけどつい、イライラしてしまうのは。
その五枚の中に一枚だけ、いずれ自分のライバルになりそうなタッチを見つけたからだ。
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