今だから言える話ですが

19/19
2413人が本棚に入れています
本棚に追加
/222ページ
すると何故か矢沢はクスッと笑って。 「はいはい。じゃあ、とりあえずまだ時間早いけど飲み行くか」 そう言って私の肩を抱くと、そのまま歩きだしていく。 「ちょっ、何でそうなる?」 「だって、しばらくホテル暮らしだといろいろ金かかるだろ」 「…まぁ」 「だーかーらー、優しい同期が今日はうまいもん食いに連れてってやるよ」 矢沢はそう言うと、肩に置かれていた手を私の頭にぽんっと乗せ、ニッと笑顔を見せた。 不意打ちのその笑顔と優しい手の感触に、思わず胸の奥がドキンと反応した。 でも、こんなことくらいでいちいちドキドキしてる場合じゃない。 矢沢にとってはきっとこんな行為に深い意味なんてない。 彼氏と別れて困った状況の同期に、ただ少しだけ優しくしてくれているだけだ。 慌ててそう思った私はすぐに口を開く。 「…じゃっ、じゃあ!鍋!鍋がいい!モツ鍋が食べたい」 「お、いーね、モツ鍋」 「最近出来たとこなんだけど、ちょっと待って、場所調べるから」 と、とにかく平常心を取り戻せ。 早くおさまれ、このドキドキ。 そう思いながら携帯を操作した私は、すぐに目的地のモツ鍋屋を見つけた。 「ここから二駅だって」 そして矢沢にそう言うと、少し距離を取るように私は先に歩き出した。
/222ページ

最初のコメントを投稿しよう!