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ぼくにはママがいる。でもパパはいない。
ぼくが生まれるずっと前にパパの声は聞こえなくなった。
ぼくがママのお腹に発生した頃のママとパパの声はとても穏やかで、お腹の中にいるぼくの成長を喜びこの世に誕生することを楽しみだと言ってくれていた。
「はやく大きくなあれ。」
毎日二人で、ぼくがいるママのお腹をなで、お互いでは投げかけあったことない愛情をまだ人の形にもなっていないぼくにくれた。
それは、その頃のぼくにとっては声だけの愛情だったけれど、とても心地が良くこの2人の子供として誕生できる事に喜びしかなかった。
ぼくはママからの栄養をもらい、少しずつ大きくなっていったが、ぼくが大きくなるにつれて、ママとパパの会話は穏やかではなくなっていった。
「ねえ、これ誰?」
「なに人の勝手に見てんだよ」
「まさか浮気?」
「違うから、会社の同僚・・・・・・っていうか、勝手に人のスマホ見んじゃねえよ」
お腹の中にいるぼくには、『音』しか聞こえてこない。
ぼくには二人の言い争いが見えているわけではないから、ママとパパの話し合いが、言い争いなのか会話なのかは語気で判断するしかなかった。
この頃の言い争う言葉には怒りや不安や愛情が入り交じり、お互いがお互いの気持ちを推し測りながら、現状の関係性を維持させようとする気持ちが垣間見えた。
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