マイ・スイート・ホーム~家と私とおばあちゃんと~

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昨日までの雨が嘘みたいだ。 抜けるような青い空に、じりじりと照りつけるような陽の光。お出かけ日和というには少し暑いのが困るけど、雨でずぶ濡れになるよりはマシだ。 私は、裏の木戸をそっと押した。ずいぶん前から建付けが悪くなっていた木戸は、申し訳程度にしか開かない……僅かな隙間に身体を捩じ込むのが精一杯だ。 忍び足で裏庭を抜けて、縁側に向かった。この時間なら、おばあちゃんはいつもあそこで日向ぼっこをしているはずだ。 ……やっぱり、いた。おばあちゃんはお気に入りの臙脂色の座布団に座って、以前と変わらぬ穏やかな顔で庭を眺めている。 「おばあちゃん!」 建物の陰からひょっこり顔を覗かせた私に気づいて、おばあちゃんは目を細めた。もうずいぶん耳が遠くなったはずなのに、おばあちゃんは絶対に私の声を聞き逃さない。 「おや、来たのかい? ……そんなところに隠れてないで、さあ、こっちにおいで」 おばあちゃんは微笑みながら、半分身を隠したままの私に向かって手招きをした。いつもならすぐに飛んでいくところだけど、今日はちょっとだけ事情が違う。 「今日はね、私だけじゃないんだ……ほら、おばあちゃんに挨拶しなさい」 私の腰の辺りに二つ並んだ顔を見て、おばあちゃんは顔を綻ばせた。……男の子と、女の子。私の大切な子供たち。 「前に約束したでしょ。今度ここに来る時は子供も一緒に、って」 「そうかね、あんたの子供かね……まあ、小さい頃のあんたにそっくりだ」 子供たちは挨拶もそこそこに、目の前に広がる大きな庭をキョロキョロと眺め始める。私が窘めようとする前に、おばあちゃんが子供たちに声をかけた。 「お庭、気に入ったかね?」 「うん! こんな大きなお庭、初めて!」 「じゃあ、好きに遊んでおいで。……ああ、降りられなくなるといけないから、木登りはやめておいた方がいいかもねえ」 おばあちゃんの笑顔に、私は思わず苦笑いした……そう、ひとりで降りられないくせに何度も木に登っては、結局おばあちゃんに助けを求めていたのは、他ならぬ私だ。
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