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ビー玉を必死に探す光景は滑稽だと思う。
それも、明らかに、僕は諦めていた。
理由はただ一つ。
流れるプールに弟がビー玉を持ち込んで、無くしたからだ。
「ばかあに」
誰が、ばかだ。そう叫びたい。
「探してるよ」
と、言ったところで、弟は泣き止まない。
泣いている弟を必死に母は宥めているが、あの、ビー玉じゃないと嫌だ、と弟は叫んでいる。
何に執着しているのか、僕には全く分からない。
「ありそう?」
母は僕に訊くが、もし、この状況下で、弟の言っている一つのビー玉を見つけられれば、僕の持っている一生分の運を使い果たす気がする。
「見つからないよ」
段々、体も冷えてきて、プールから上がりたくなってくる。三人でプールに来ている以上、他の人に頼むことは出来ない。
「あのな」
一旦、プールサイドに上がった、僕は弟に話し始める。
「そんなに泣いてんなら、自分で探せよ」
イライラもするはずである。
「やだよ、見つかるわけないじゃん」
見つかるわけないと思っている物を、兄に探せと言っているのだから、独裁主義並みに酷い話である。
「早く取ってきてよ」
ぶっきらぼうに言う弟に対して、僕は手をあげた。
「やめ」
母が小さな声で僕に対して睨みながら言うので、また怖い。こんな状況なら、誰だって手がでてもおかしくないと思う。
「殴ったら、もっと泣くよ」
もっともである。僕は黙った。
「ビー玉、帰りに買おうね」
母はどうも弟に優しいと思う。今回の犯人はどう考えても弟のはずなのに、弟に対して怒っているところを見ていない。
「やだ」
それでも、粘るのでイラっと来る。
「どうして、あのビー玉がいいの?」
母は尋ねた。僕もうすうす気になっていた事項である。
「お兄ちゃんがくれたビー玉だったんだもん。絶対無くさないって」
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