晩夏の香り

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僕は忘れられない。 彼女のことを。 彼女と、あの夏のことを。 僕の、高校三年生の夏の話だ。 高校三年生の夏といえば、多くが部活を引退し、大学受験ないし就職活動に本腰を入れ始める時期だ。 僕はといえば、六月の県大会で早々に敗退したため、夏本番を待たずに受験生モードに切り替えていたのだが。 八月も終わり、大方全ての部活で世代交代が完了したと思われる夏休み明け、僕は放課後に近所の図書館に足を運んだ。 もちろん、受験勉強のためだ。 残念、というわけもないが、恥ずかしながら三年間部活に全力を注いできたため、勉学の方は疎かにしてきてしまったのだ。 その遅れは、簡単に取り戻せるものでは決してなかった。だからと言って、そのままにしておいていいというものでも無かった。 まだ九月だというのに、夏が終わったような異様な日だったが、僕は夏用の制服でいたと思う。 膝をそっとさすりながら、自習用のスペースに腰掛けてテキストを開いた。
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