晩夏の香り

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それから僕らは互いに集中した。 僕は何度か席を外すことはあったが、万智さんはその間もずっと集中していた。 時刻は午後六時半。陽もかなり傾き、世界が橙色に染まった頃、同じく橙色に染まった万智さんがおもむろに口を開いた。 「水緒くん。」 「ん?」 「トマトって、和名だと『蕃茄』って言うんだって。」 「へえ。知らなかった。」 急にどうしたのかと万智さんの方に顔を向けると、彼女の横には四十代ぐらいの女性が立っていた。 彼女は何も言ってはいなかったが、迎えがきたのだとわかった。 「九月の、ちょうど今頃の時期もね、同じ読みで『晩夏』っていうの。」 彼女は迎えの女性も、あるいは僕すらも無視して続けた。 「私小さい頃、それがトマトの由来だと思ってたの。だって夏の終わりの夕日の色って、トマトみたいに真っ赤で綺麗じゃない?」 そう言って僕に微笑みかけた彼女の顔は、何よりも可愛らしく、何よりも美しかった。 そのあとすぐ、彼女は女性に連れられてその場を後にした。
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