逆襲のアルテミス

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売人が驚愕したのも束の間、ヘルの猫パンチに売人は吹き飛んだ。売人が動かなくなり、少女の1人が小さな悲鳴を上げる間にも、ヘルは2人を殴り飛ばし、最後の1人に噛みつき、ぶん投げた。 「ひえぇぇーーっ、く、くく来るな、マジモンかっ!」 「ノイルうるさい、大丈夫ですから」 そう言うとルアは駆け出した。愛おしそうにヘルを呼びながら。するとヘルもクゥンと鳴き、抱きついたルアに顔を擦り付けた。 「お、おい・・・。嬢ちゃん・・・ほ、本物、なのか?本物の、ケルベロス・ヘルハウンドか?」 「そうですよ?ヘルです。私と同い年なんです。生まれた時にヘルも家に来たので、もう双子みたいなものです」 「そ・・・そう、ですか」 「そんな事より、治療を急ぎましょう」 ケルベロス・ヘルハウンド。猟犬として用いられるヘルハウンド種の中では最大にして最速、最高感度の嗅覚を持ち、つまり最強で知られる。ゾウ科やキリン科、クマ科などの動物に対しての狩猟を目的として、グレイハウンドをベースに、チーターやジャガーの遺伝子を配合して品種改良された。最大体高は約180センチメートル、首は短いが頭を上げればその位置は2メートルに届いてしまうほどになり、最大重量は約120キロ。流石に頭は3つではないが、そんな巨体が闊歩している状況に、ノイルは気が気ではないのだ。噂では、ケルベロスという品種名が付けられたのにはそれなりの理由があるそうな。人工交配で品種改良されたものなのに、DNAに突然変異が見られ、その特殊能力が「魔力」と呼ばれるようになった為であると。しかしそれ以前にだ、“片手でヒトを殺せるほどのイヌ”が、安全な訳がない。細身ではあるが、巨体を支えられるだけの凄まじい質量の筋肉があるんだ、じゃれられただけでも病院送り、いや墓送りにもなり兼ねないだろう。そんな生物と双子なんですって、この女はイタイ、じゃなくて、ヤバい。話しかけなきゃ良かった。いや、そうじゃなかったら俺は死んでたか。ともかく、集落に着いたらさっさとどっかに行って貰おう。そんな事を考えるノイルであった。
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