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逆襲のアルテミス
そうか、これは夢だ。夢を見ているとそう自覚する事はたまにある。しかし彼女が認識したものは紛れもない悪夢だった。何の悪夢かさえも分かっていた。自分がただ愕然とする夢。彼女は1人の女性の亡骸の前で、絶望にうちひしがれていた。その女性の弟、つまり彼女の叔父が肩を支え、優しく声を掛けても、警察の人や隣近所の人が声を掛けても、彼女の耳には届かない。深く、暗い絶望感。直後、ふっと弾き出されるように彼女は目を覚ました。小さな高窓から朝日が伸び、足元を照らしていた。もう朝か。
「おーい、嬢ちゃん」
朝だから目を覚ました訳ではない。呼び掛けられていたから目を覚ましたのだ。それは囁きかけるような声色で、陽気そうなものだった。壁に寄り掛かって座り込む形で眠っていた彼女はそのまま横を向いた。
「目覚めの悪そうな顔だなぁおい。可愛い顔が台無しだ、へへ。お前さん、ウマイ話があるんだが、ちょいと乗ってみちゃくれないか?」
「ウマイ話、ですか」
少し不気味な、余裕の伺える笑みを浮かべながら、その男は鉄格子越しに廊下を見渡す。見張りを気にしているようだ。そう、ここは牢獄。その男も、彼女も今は捕らわれの身。今の彼女は、目が覚めても悪夢の中に居た。しかしその向かいの男は見張りが居ない事を確認するなり、こそこそと鍵穴に何かを入れ始めた。
「ここからは人手が要るんでね」
カチッと音が鳴った。その不気味な男はほんの数秒で鍵を開けたのだ。すると男は慣れた足取りで彼女に近付き、また素早く牢の鍵を開けた。
第1話「逆襲のアルテミス」
カチャカチャと鎖が擦れ合う音が鳴る。冷たいコンクリートの地面を裸足で歩かされる、手足に枷を嵌められた1人の少女が無法者達の前に連れて来られると、1本の紐で引かれただけの線に詰め寄る小汚ない男共は悪どい歓声を上げた。
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