彼は、眠りについたーー。

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彼は、眠りについたーー。

エンジンを切った少し蒸し暑い車の中で、俺は愛用の煙草を口に咥え。時間を確認する。 「もうすぐ一時か」 これが昼間の一時だったら、この電灯のない小さな駐車場に一人でいたところでどうとも思わないのだが。今は深夜の一時。人通りも少なければ明かりもなく。シーンと静かな空気だけが、どうも耳に張り付いて薄気味悪い。 今なら、白い服を着た長い髪の女性が近くを通っただけ驚く自信がある。 プルプル。プルプル。 「おっふっ!!って、なんだ……電話か」 突然車内に鳴り響いた着信音に心臓をバクバクさせながら、ポケットにしまっていたスマホを取り出すと。画面に表示されていたのは、真鍋(まなべ)警部の名前だった。因みに真鍋警部は俺の上司で、少しとっつきにくい人ではあるが、真面目で頼りになる人だ。 「あ、はい!田代です!」 「<田代勇気(たしろゆうき)君。どうだ?犯人に何か動きはあったか?>」 「いえ、今は何も……。でも電気は点いているので、まだ部屋にいるのは確実です」 「<分かった。では、そのまま張り込み頼むぞ。何かあったらすぐに連絡するように>」 「了解しました」 真鍋警部との通話を切ると。緊張感が再び俺を襲う。 警察官になって二年目のまだまだ新米の俺は今、連続殺人鬼の疑いのある男のアパートを張り込んでいる。 男の名前は霧崎好奇(きりさきこうき)。普段はコンビニでバイトをしているらしいが。ときどき夜中になると。どこかへ出かけているらしい。 そして霧崎が出かける日には、必ず死体が見つかっているのだ。 しかし、アイツには決定的な証拠が見つからない。だからこうして、俺が張り込みをしているというわけだ。
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