毒の花

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 隆子は頭がクラクラした。二十五歳で結婚して十二年、子供には恵まれなかった。けれど三十代なのだし、望みはまだあると思っていた。義母の芳江は、 「子供がすべてじゃないわ。気に病まないで」  と隆子を慰めていたはずだ。その義母が嫁のいない場で、離婚やら再婚やらを勧めたなんて。俄かには信じ難い。義母はまた、隆子にこうも言った。 「タカちゃんは私の娘よ。だからあなたは実の親だと思って甘えていいのよ」  と。だからといって隆子は甘えなかった。常に気を遣い、義父が長期入院中で大変だろうと、時々夫の実家の大掃除をした。義母が風邪をひけば飛んで行き、食事を作ったり、病院に連れて行ったり、義父の入院先に車を走らせ、大量の洗濯物を持ち帰ってせっせと洗濯もした。親戚の法事があれば気がつく限り気を回らせて手伝いをした。この十二年、嫌味を言われることがあっても笑顔を絶やさず義母を立ててきた。そうやってコツコツと築き上げてきた義母との関係は、良好だと思っていた関係は、一体何だったのか。  不妊治療を真が拒んだ理由も、あの時すでにあの女のお腹の中に夫の子供がいたからなのだと知り愕然とした。真は言ったのだ。 「不妊治療? そんなことしてまで子供を欲しいと思わないよ。自然に任せるべきだよ」  探偵の前で隆子は泣いた。探偵はそっとティッシュの箱を差し出し、泣き止むのを待っていた。何分泣いていたのか。狭い雑居ビルの一室に夕陽が射し込んでいた。 「どうしますか? 弁護士を紹介しますか?」 「わかりません。自分がどうしたいのか。別れたいのか、妻であり続けたいのか」
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