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「弁護士が必要になったらご連絡ください」
「ありがとうございます」
隆子は証拠写真と、盗聴記録のカセットテープを受け取って立ち上がった。ぼんやりと、今どきCDやUSBじゃなくてこの人はカセットなんだ、とそんなところに感心していた。
札幌から南へ。景色に緑が多くなるに従い隆子の口数が増えた。とりとめのないことばかり喋り続ける隆子に、何かあったのかと勘の鋭い美世が訊く。隆子は、職場で嫌な人がいてストレスが溜まっていると嘘をついた。
「どこに行っても嫌な人はいるものよ。今日は山の空気でリフレッシュするといいわ」
五月晴れ。だが山の中は薄暗い。ここで間違えて毒草を摘んでも、間違えたで済むだろう。鬱陶しい木々を掻き分け、注意深く奥へ進む。
エコーがかかったような鳥の声が辺りに響く。熊避けの鈴を鳴らし、時折ホイッスルを吹く。そうやって人間が近くにいることを熊に知らせる。熊の方も、人間と遭遇するのは嫌だから、こうして音を出せば通常は大丈夫なのだと美世が笑った。
「あら、あっちにウドがあるわ」
美世が早足で行き、嬉しそうにウドを採り、背中の大きなリュックサックに入れている。
ホームセンターで買った専用のナイフを使い、隆子は不慣れな手つきで知っている山菜を摘んだ。布製のリュックサックにそれらを入れる。フキは対になって生えている。丸い茎を包むように外側に生えている方は、中に当たる面が平らになっていて、そっちの方が美味しい。ウドは土を少し掘り、根元から採る。根元の紫の部分は皮を剥いた後、味噌をつけて生でも食べられるが、隆子は茹でて酢味噌和えにするのが好きだった。
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