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これはトリカブトだろうか。それとも二輪草だろうか。隆子は前屈みになり、葉を手に取った。あれほど詳しく本を確認したのに、急にどちらなのかわからなくなる。
ロシアンルーレットね。隆子は心の中で呟いた。いざとなると本当にわからないものだ。妙に感心しながら、隆子は素早く草を根元から引き抜いた。トリカブトは根に多く猛毒が含まれていることは調べ済。植物を丸めてポケットに入れた。リュックサックの中は、初心者の隆子のために、毒草が混ざっていないか美世が調べることになっている。
どうせ子供もいない私には、失うものは何もない。開き直りが隆子を大胆にさせた。山の空気のせいで、胸中のモヤモヤがリセットされて生まれた開き直りだったかもしれない。
隆子はその後もポーカーフェイスを装いながら、昼近くまで美世と山菜採りを続け、再び彼女の運転で自宅に戻った。玄関先でリュックサックの中身を見てもらい、毒草が混ざっていないことのお墨付きを得てから、一緒に皮剥きなどの後処理をしましょうと誘ってきた美世を、疲れてしまったからと何とか断り、ようやく一人になった。さっさと玄関に鍵をかけ、山に入るときに着たレインウェアの上下をビニール袋から出し、ズボンの両ポケットに丸めて突っ込んだ例の植物を取り出した。毒草かもしれない植物はポケットの中で束になって萎びかけていたが、解してみると思った以上に量があった。
「これだけあれば大丈夫。あなたたちの望み、私が全部打ち砕いてあげる」
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