毒の花

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「本当に気にしないで。このケーキの代金をあなたからもらって、ぼくが別のケーキを買えばいいだけのことですから」  二、三歳上だろうか。隆子はドキリとした。好きな俳優に何となく似ていたのである。 「母は入院中なんです。伊吹屋のモンブランが食べたいって言うものですから」 「それじゃ、なおさら持ってかなくちゃ」  お礼をしたいからと名刺をもらい、隆子は何度も頭を下げた。後日思い切って、お礼のつもりで隆子の方から食事に誘った。が、心のどこかにあわよくばこの人と、と願う女心がなかったかといえば嘘になる。  四つ年上の真は、会話も面白く一緒にいて楽しかった。男女の仲は急速に深まり、そして二年後に結婚した。  実に陳腐な出会いだ。隆子はケーキの箱を開け、中のモンブランを見て苦笑した。まるで使い古されたドラマのシナリオ。少女漫画の世界で見るような「運命」的な出会い。だが、今はモンブランの薄茶色の表面が、嘲笑っているかのように薄汚れて見える。  そうね、どうしようもないわ。十二年後がこのザマよ。隆子は自嘲的な笑みを浮かべた。  後で一緒にやりましょう、ロシアンルーレット。思い残すことは何もない。一緒に食べましょう、そして…。隆子は、着替えてきてソファに寛ぐ真に胸中で話しかけた。  ケトルがけたたましい音を上げた。念入りに、お気に入りのハーブティーを淹れる。 「ねえ、こっちに来て一緒に食べない?」 「いや、俺はいい。あとでビール飲むし」 「そう? じゃあ私、ケーキ食べちゃうよ」
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