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夫の身体がガクリとよろめき、隆子の前に跪く格好になった。
「すまない」
「土下座? 男ってわりとすぐ土下座するのね。テレビでもそんな光景よく観たわ」
「お願いだ。話し合ってくれないか」
「何を? 離婚について? 冗談じゃない」
「お願いだ。冷静になって、話し合って欲しい。俺も、いつまでも隠し通せるとは思っていなかった。お前が怒るのももっともだ。全部俺が悪い。お前はよく尽くしてくれる。だからいつまでも言い出し難かった。けど、こうなってしまっては俺も腹を括るよ。離婚に向けて、話し合って欲しい」
言うなり真は立ち上がり、寝室へ行き、旅行鞄を出すと、着替えを詰め込み始めた。隆子は部屋の入り口から声をかけた。
「出てくの?」
「ああ。もう、俺とは暮らせないだろう」
「あの女のところへ?」
「いや、実家へ行くよ」
「どうだか」
「約束する。本当に実家に行く」
「悪いけど私、お義母さんのことも信じられないから。どうしてかは、テープを聞いて」
一瞬手を止めて振り向きかけた真だったが、また背を向けた。テープに収められている会話の内容に心当たりがあるとしか思えなかった。夫の背中がもう自分とは遠い場所にあるのだという実感が湧いた途端、隆子の両目から大粒の涙が落ちた。
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