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夫にトリカブトを食べさせたいがための演技ではない涙がどんどん隆子の頬を伝った。
「今くらい我慢してよ。ご飯も一緒に食べてくれないくらい、血も涙もない人だったの」
観念したのか真はようやく箸を取った。
「これ、何の植物?」
真が、例の玉子とじを箸でつまんだ。
「三つ葉」
全く違う植物の名を告げた。真は首を傾げたが、それ以上の追及はなかった。いよいよ真がその植物を口に運んだ。ロシアンルーレット。隆子も同様にそれを口に運ぶ。
だが、苦味はなかった。口の中に旨みが広がる。真は静かにそれを飲み下した。隆子も同じようにした。口にも身体にも痺れは起こらない。もう一口真はその植物を口の中に運び、静かに咀嚼し、先ほどと同じように飲み下した。隆子も同じように続けた。
二輪草、だった。十二年も夫婦として供に暮らした夫を殺さずに済んだ安堵と、一緒に死ねなかった悔しさが複雑に絡み合う。
所詮こうなのか。一緒に死ぬことさえも拒まれるのか。急速に気持ちが冷え、それまで世界についていた色さえも失われ、目の前の景色が白くなる。
「もう、いいわ。出てってよ」
「ごめん。いずれ話し合いの席を設けるから」
隆子は嫌に冷静に真に訊いた。
「私と離婚してあの人と再婚することが、今のあなたの望みなのよね?」
「ああ」
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