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母には悪いが、母を反面教師に生きてきた。信子は家事が苦手で、多少の埃があっても気にしなかった。下ろした洗濯物がカゴに入ったまま数日経過するということも頻繁にあった。家事を真面目にしない主婦だった。日がな一日読書をしたり、手芸をして過ごしていることもあった。買いものは三日に一度くらい行くが、メニューを事前に決めないのでやたらと時間がかかるわりに、買ってきた具材のバランスも悪かった。友人との外食の予定はメモを書かなくても日時と場所を覚えており、お洒落をしていそいそと出かけていく。
母がだらしないから父が他の女に走ったのだ。自分は家のことを第一に考える妻になろうと誓った。埃一つないきれいさを保ち、メニューを考えてから買いものへ行き、食材も無駄にしないように冷凍保存を活用しながら効率よく炊事をする。パートに出るようになり、さすがに余裕がなくなってお惣菜に頼ったこともある。真はそれに嫌気が差してしまったのかと、隆子は自分の手抜きを反省した。
だが、よかれと思ってしていたことは単なる自己満足で、何一つ感謝されていなかったのかもしれない。それどころか相手に逆に嫌な印象を与えていたのか。窮屈だったの? 私といるのが、窮屈だったの? 問いたくても問い質す相手は家を出て行き、いずれ子供が生まれた時のことを考えて建てた3LDKの一戸建ては、今、隆子には広過ぎる。
母と今の自分を重ねる。どう違うのだろう。家事が苦手だった母。家事に力を注いだ自分。やっていることは正反対でも結果は同じだ。二人とも夫が外に女をつくった。よく似た母娘だ。呆れるくらいに。
「大っ嫌い」
誰に言ったのか、隆子自身にもわからない。夫か、姑か、あの女か、父なのか、母なのか、または自分自身なのか。多分、その全員だ。
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