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自分は裏切られた。その衝撃が思った以上に大きく、いつまでも立ち上がれないのだ。前にも行けない。後ろにも引き下がれない。右を見ても左を見ても、自分の味方はどこにもいないような気がする。沈んでいた時、美世が隆子の様子を見にきた。最近、頼んでもいないのに週に一度は様子を見にくる。
美世は何も言わず、散乱したゴミを片付け始めた。勝手知ったる他人の家で、掃除機をかけ、部屋がきれいになったところでソファに腰掛け、呆然と突っ立っていた隆子を向かい側に座るよう、促した。
「私はね、お母さんから頼まれたの。自分が死んだ後、隆子ちゃんが困ったら助けてあげてって。でもおばさん、正直、今のあなたに何を言えばいいのかわからないわ」
隆子は俯いた。美世を有難く思う感情も、鬱陶しく思う感情もどこかに行っている。
「ただ一つヒントになることを教えるわ。隆子ちゃんは妻としてよくやっていたと思う。だからあなたは恐らく勝つと思う」
「私が、勝つ? 何に」
美世が顔を上げた隆子の目を見つめた。
「離婚裁判よ。いい? 女は、真さんに奥さんがいることを承知していた。真さんは、パートに出て、お洒落もせずに家計のために切り詰めて頑張っていた隆子ちゃんを裏切った。あなたは真さんに慰謝料の請求、相手には損害賠償を請求できる立場にあるのよ。お母さんを見てよくわかってるはず。一旦、裏切られた関係が元に戻ることはない。だったら、もぎ取れるだけもぎ取って前に進むべきよ」
よく考えるのよ、と言い残して美世は帰って行った。
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