毒の花

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「そうですか、ご決心なさいましたか」 「ええ。取れるだけ取ってやります。非はあちらにあります。子供がいようが相手のこれからの生活に支障を来そうが関係ありません」 「そうです、その息ですよ、隆子さん」  添田は隆子を姓ではなく名前で呼んだ。桑島というのが夫の姓であることに気を遣ってそう呼んだのだとすぐにわかった。 「いいですか、これからが闘いです」  添田は受話器を取った。 「神尾先生はいらっしゃいますか」  弁護士と話している添田の額が、少し赤みがかっている。「闘い」という言葉が隆子の心に響いた。調停での話し合いになど応じない。裁判まで持ち込む。ドロドロの争いになって挫けることがあっても、自分は闘う。  毒を以て毒を制す。  溝口真未は毒だ。姑の芳江も毒だ。ならば法廷で自分も毒になるしかあるまい。毒で囲んであげるわ。真、あなたを。「お前はきれいだ」むかしはよく言ってくれたじゃない。だからあなたが後悔するくらい私は美しくなってやる。だって毒の花は美しいもの。隆子は一張羅のワンピースの花柄を見下ろした。  トリカブト、鈴蘭、水仙。アコニチン、リコリン、コンパラトキシン…。猛毒。いずれも致死量は数ミリから数グラム程度。要注意。わからない植物は採取しないよう心掛けましょう。  隆子の頭の中を、野草に関する注意書きが流れて行った。 〈完〉
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