毒の花

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 山のメリットを目を輝かせて訴える。虫が多いから嫌だと隆子が断ると、 「首にタオル、長袖長靴に手袋。露出をなくして、帽子のツバの裏に湿布を貼るの。それに虫よけスプレーもあるし、心配いらないよ」  と美世は引き下がらなかった。 「まあ、毎週は無理だけど、一回、二回なら」  断り切れずに隆子が頷くと、美世はすぐに野草の本を持ってきた。 「念のためお勉強しといてね」  玄関先に突っ立っている隆子に本を持たせ、有無を言わさぬ勢いで約束を取りつけた美世は、楽しみにしている、と振り向きがてら手を振る。まるで、仲良しの友達と初めて町へ出掛ける幼子のように無邪気だ。悪い人ではないのだが、一人の時間を大事にしたい時には、美世の強引さは少々鬱陶しい。  野草の本をパラパラと捲っても、最初のうちは何も感じなかった。身近な草花が毒草だと知っても、へえ、そうなんだ、と頷く程度だった。だが「猛毒」という言葉が引っかかった。理性が被せていた蓋が外れ、心の奥深くに沈め続けてきた怒りや悲しみ、憎しみが凝縮され、集まって変換された殺意という恐ろしい感情が、心の内側から、堤防の決壊のように一気に溢れ出た。 「いっそ、自分が食べちゃおうか、毒草」  ぽつんと呟いた。部屋の中は静かだった。
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