毒の花

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 一年半ほど前から、夫・真の帰宅時間が遅くなった。課長になり、会議や接待が増えたからだと本人は言う。お目出度くも隆子は夫の言葉を信じていた。その勘違いの上に胡坐をかいていたからこんな事態に陥ったのだと悔やむ。休日に真がゴルフバッグを持って早朝から出かける後ろ姿を、慣れない接待ゴルフで大変だな、と見送ったものだ。  ある日近所で火事があった。昼間、会議で遅くなるという真からのメールを受けていた。鎮火もして死者もなかったが近所が騒然としていたので、六時頃真の携帯に電話をかけた。しかし電源が入っておらず繋がらなかったので会社に電話をかけた。電話には見知っている菊池という営業部員が出た。 「桑島課長の奥さん、いつもお世話になっております。課長は定時に帰りましたけど」 「え? あの、今日は会議ですよね?」 「会議? ありませんよ」  あっさりと否定された。 「そうですか、すみません」 「ええ。もう帰宅される頃だと思いますよ」 「ありがとうございます。失礼します」  会議がなくなったのなら連絡くらい入れてくれればいいのに。地下鉄の駅からは徒歩十分ほどだ。七時には戻るだろう。  会議の日は部下達と飲みに行くことが多い。家に帰るとなると何か作らなくては。冷蔵庫を開けた。カレーならば材料が揃っている。久々に夫と食事ができると思うと嬉しかった。  だが、食事の支度が整っても真は帰ってこなかった。外はもう静かになっていた。八時を回り、隆子は再度夫の携帯電話にかけたが、相変わらず電源が切れたままだった。
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