毒の花

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 そういえば大通公園の近くに新しくスポーツクラブが出来たと言っていた。時間が空いてトレーニングに汗を流しているのかもしれないし、仕事のストレスから解放されたくて、一人で映画でも観ているのかもしれない。仕方なく、隆子は一人で夕食を済ませた。  真は十二時近くに帰ってきた。起きていた隆子を見ると、少し驚いたような顔をした。 「遅かったのね」  明るさを装ったつもりだったが、言葉に抑揚がなく、不満を露わにした言い方になった。 「いつもは寝てるのに。どうしたんだ」 「田畑さん家で火事があったの。類焼も死者もなくて、火は間もなく消えたけど、近所が騒然としてたから。何だかこっちも興奮しちゃって眠れなかったの。お風呂入るでしょ」 「あ、いや、いい。明日の朝シャワー入るよ」 「会議、長引いたのね。お疲れでしょ」  と真にかまをかけた。その瞬間、夫の顔に浮かんだ狼狽を隆子は見逃さなかった。 「いや、大丈夫。菊池達を連れて居酒屋行った後、田辺の行きつけっていうバーに行った」 「そう、なんだ…」  嘘つき。私は菊池さんと話したの。あなたは定時に帰ったって。どこに行っていたの? 問い質そうとして唇を開きかけたが何故か声が出なかった。何で? 何で声が出ないの?  「今日は疲れたよ」  真に手を伸ばそうとした。だが、手が震えるばかりで動かない。金縛りに遭ったみたいに、隆子は居間のソファの前に立ち尽くした。
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